冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます
 社長が私から視線をそらし、ため息をついた。
 突如として私の中に得体の知れぬ感情が湧き上がり、胸を突き破って出てきそうになる。
 
(失敗した……!)

 衝動に任せてひとりよがりな持論をぶちまけたことをひどく後悔した。
 
 いてもたってもいられず、勢いよく立ち上がって出口へ向かう。
 社長の姿を視界に入れないよう、首が不自然な角度に曲がってしまい、我ながら滑稽だ。
 途中、上を向いて激情がこぼれそうになるのをこらえる。
 
 わかっている。
 私は本当に言いたいことを言えないから、社長に正義感を振りかざして不満をぶつけてしまったのだ。
 偉そうに言うべきことではない。
 こんなときに言うべきことではない。
 わかっていたはずなのに……。

 そのとき、後ろから腕をつかまれた。
 
「待って」

 腕をつかまれた反動で私は振り向いた。
 前のめりになった社長が、私の腕をつかんでいる。私を追いかけてきてくれたのだ、とわかると、喉元に何かがせり上がってきて苦しくなった。
 
 それなのに、素直じゃない私は態度を変えられない。
 唇をギュッと結んで、社長の手を振りほどこうとした。
 
「帰ります」
「送る」
 
「なんで優しくするんですか? 怒っていたんじゃないんですか? 呆れていたんじゃないんですか?」

 周囲には誰もいない。もうほとんどの人が劇場の外へ出てしまっていた。
 声が自然と大きくなる。

「それにどうして今日、社長がここに来たんですか!?」
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