冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます
 私は涙が頬を伝うのも気にせず、思っていたことを全部吐き出した。
 急につかまれていた腕が解放される。
 
「俺じゃなくて、古東のほうがよかったのか?」

 なぜかいつものように自信に満ちた声ではなく、か細く震えそうな悲しい声音だった。
 涙がたまったままの目で、社長の顔を確かめる。
 思いつめたような、追いすがるような、切実な視線を正面から受けて、私は彼から目が離せなくなってしまった。
 
「違います」

 そう。
 私は古東さんじゃなく社長が来てくれて、ものすごく安心したし、嬉しくてドキドキした。
 大好きなミュージカルを、まさか社長と一緒に鑑賞することになるなんて、考えてもいなかったこと。心が高揚しすぎて、心臓の鼓動が耳の横で鳴っているかのように聞こえていた。

 もうこの気持ちは隠しきれない。
 いつの間にか、私は社長のことを――こんなに好きになってしまっていた、と。
 
 目の前の人がクスッと笑う。
 社長がとろけるような優しい表情で、私の頬の涙を指で拭う。
 
「続きは車の中で話そう」
 
 返事をする前に再び腕をつかまれた。
 私は社長に手を引かれ、雲の上を歩くかのようなふわふわとした足取りで劇場を後にした。
< 26 / 40 >

この作品をシェア

pagetop