素直になれないふたり
「背中どころか、胸元まで開きすぎなんだよ。スリットはどうしようもないけど、上半身を隠すだけでも少しはマシかな」
 一人で納得したような顔でジローは言う。
「じゃあね」
「ああ。おやすみ。気をつけろよ」

 いま住んでいる部屋は、ジローの店から電車で一本。歩ける距離でもある。
 外では気づかなかったが、部屋に戻ると、パーカーからは、ほんのりとジローのにおいがした。
 汗臭いというのではなく、おひさまの香りに近い。
 いつも、互いに貶し合っている私たちは、誰がどう見てもいい感じには程遠く、ましてや元恋人になど見えるはずもないだろう。
 元恋人と呼ぶには、あまりに淡く儚すぎたかもしれないが、10代の頃の私たちは⋯⋯。
 ダメダメ!もう思い出すのはやめよう。
 それよりも、バッカスに連絡するほうが先決だ。
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