素直になれないふたり
「そうかい。ご存知の通り、俺は調理師だったけど、子供の居ない伯父が大事にしてきたこの店を継いだ。世間はバーテンを3Bとか言うけど、俺は一度だってお客さんとどうこうなったことはないから」
「ハイハイ。でも、アンタには感謝するわ。こんな出会いの場を提供してくれて。そういえば、アンタがケチつけたこの服、バッカスにとっては好みだったのかな。真っ赤で、背中がばっくり開いてて」
 ふと、何か言いたげなジローの視線に気付き、思わず目をそらす。
「じゃあ、帰るわ」
「あ、ちょっと待てよ」
「何?」
「これ、羽織って帰りな」
 ジローは、私の肩に薄手のパーカーをかける。
「え?別にいいのに」
「ダメだよ!いくら郊外だからって、そんな露出度の高い服で夜道を歩くなんて危ないだろ」
 私にパーカーを着せ、ジッパーを首までしっかり上げるジロー。
「真っ赤なワンピの上にブカブカのパーカーって、ミスマッチ⋯⋯」
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