聖女王子とスパダリ女騎士 ~王女の護衛のはずが、寵愛を受けています~
 寝室の一角に猫足のバスタブが置かれ、薔薇の花びらが水面を埋め尽くしている。
 隣に立つのは美しい銀髪の人物。
 その人物には胸がなかった。痩せているとかいうレベルではなく、まっ平。女性らしい丸みはなく、なによりも下半身には女性にはないはずのものがついていた。
 彼が手を上げると、寝室のドアがひとりでにバタンと閉まった。

 と同時に、リーズロッテは動けなくなる。
 しまった、魔術で拘束された。

 そう思うが、遅い。抗魔術具は、王宮の中だからとひとつも身に着けていなかった。
 そもそも、身体拘束魔術を呪文の詠唱もなしに使える者はこの国ではひとりしかいない。

 やはり王女殿下? どう見ても男なのに?
 混乱するリーズロッテの前で衝立がふわふわと動き、バスタブとの間に立つ。
 衣擦れの音がしたのち、衝立から現れたのはまごうかたき王女殿下。
 彼がふっと優雅に手を振ると、バスタブも衝立も消えた。

「お前……見たな」
 いつもの王女とは似ても似つかぬ低い声。
「なんのことでございましょう」
 リーズロッテはとぼけて見せた。
「しらじらしい。正直に言え」
 リーズロッテは静かに息を吐いた。

「恐れ多くも湯あみの場に乱入いたしましたこと、深くお詫び申し上げます。つきましては私が見たことは外部に漏らすつもりはございませんこと、ご承知おきくださいましたら幸いでございます」
「当然だ。まあ、言ったところで誰も信じないだろうけどな」
 ふん、と彼は鼻を鳴らす。
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