聖女王子とスパダリ女騎士 ~王女の護衛のはずが、寵愛を受けています~
 ドルシュもまた心を奪われているひとりだ。だからこそ彼女の前で活躍したいのだろう。二十五歳になった今でも独身なのは王女との結婚を夢見ているからだという噂もある。それが本当ならば意外に一途で純情なのだと思えなくもない。

 隣席するのは王女だけではない。団長もまた、彼女の隣で実践訓練を見守っている。
 だから、兵たちの士気はいつもより高い。王女に、団長に、いいところを見せたい。

 噂では新たに王女の近衛に入れる人物を選定しているのだとか。
 だからドルシュは張り切っているのだ。
 魔獣を倒して市民に感謝されるほうがやりがいがあるけどな。
 リーズロッテはそう思って再度、前方を見やる。

「やあ!」
 ドルシュが掛け声と共にへっぴり腰で魔獣に剣を振るうが、まったく当たることはない。なにせ彼は剣で切り付けられる距離にいないのだから。
 魔獣もそれをわかっていて、彼を相手にしていない。魔獣が警戒しているのは、彼の後ろに控える兵士たちだ。彼らが牽制しているから、ドルシュは襲われずにいる。

 もう充分だろう。
 リーズロッテは腰につけた鞘から剣を抜いた。
 魔獣はそれを察知して、リーズロッテを見やる。

 視線が交錯した直後、彼女は走った。兵たちの間を抜け、いっきに魔獣との距離をつめる。
 魔獣が迎え撃つべく後ろ足で立つ。
 前足がリーズロッテを狙って振るわれる。が、すんでのところで避けて剣を薙ぐ。剣は見事魔獣の腹を裂いた。

「ぐぎゃああ!」
 魔獣が叫び声をあげ、尻尾をリーズロッテにふるう。
 毒針のついた尻尾を剣でいなしたところへ、別の兵がとびかかる。
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