聖女王子とスパダリ女騎士 ~王女の護衛のはずが、寵愛を受けています~
 劣勢を悟った魔獣は咆哮を上げて威嚇し、その尾を振り回した。
 兵が一歩を引くと、魔獣が魔術師に向かって突進した。が、結界にぶつかってその足が止まる。

 突進された魔術師は、悲鳴を上げて座り込んだ。今日のこれは魔術師の訓練でもある。気圧された彼は日の浅い新人だったのだろう。彼の集中が途切れたせいで結界の一角が崩れる。

 魔獣は見えない壁に咆哮し、爪をたてる。まるで結界の壁を削り落とすかのように。実際、結界は彼の魔術の分だけ薄くなっている。
 リーズロッテは魔獣の背後から剣を振りかざす。
 毒針のついたしっぽを切り落とし、剣を突き立てる。魔獣が血を流し、よろめきながら振り返った。恨みのこもった目でリーズロッテを睨むが、息が荒い。

「どけ!」
 ドルシュがリーズロッテの前に出て剣を魔獣に向けた。
 リーズロッテは大人しく彼に譲った。力は充分に削いだ。あとは彼でも倒せるだろう。激しい息遣いは、追い込まれている証だ。
 そう思ったのだが。
 魔獣は一足飛びに彼の頭上を飛び越えた。

「なに!?」
 魔獣が目指す先には王女殿下がいる。
 リーズロッテは走った。すんでのところで割って入り、魔獣の胸に剣を突き立てた。魔獣がもがき、もろくなった結界が彼女の背に当たり、ミシミシと音を立てる。

 横目に見やると団長は剣に手をかけて警戒しているが、王女殿下は無表情でそのまま玉座に座していた。
 なんと豪胆な。団長がいるからか? それとも自身が最強の魔術の使い手だからか?

 リーズロッテは感心しつつも魔獣に意識を戻す。
 力をこめ、剣にさらに深く突き刺すと、魔獣はようやくどさりと倒れた。
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