聖女王子とスパダリ女騎士 ~王女の護衛のはずが、寵愛を受けています~
「大事ありません」
 鈴を転がすような玲瓏な声だった。
 セリスティアが身を離して立つと、リーズロッテは跪いて首を垂れた。

「麗しの御身がご無事であらせられたこと、心より嬉しく申し上げます」
 直後。ドルシュの怒声が飛んだ。
「不敬だ! 血まみれで殿下に触れるなど!」

 リーズロッテは苦い顔をした。確かに、彼女の白いドレスに赤いまだらの模様ができている。とっさに動いたが、あのままなら団長が支えていただろう。手を出すべきではなかったかもしれない。ドレスは職人が手間暇をかけた高価なものだ。職人の努力を無に帰するのも申し訳ないし、弁償となればリーズロッテの年収など軽く吹き飛ぶだろう。血のシミを落とすことができれば良いが、洗濯メイドにどれほど苦労をかけさせることになるか。

 セリスティアはにっこりとドルシュに笑みを向けた。
「良いのです。なれど、お気遣いはありがたくいただきます」
「御心に止めて頂きます光栄、しかと胸に刻みます」
 彼女の極上の笑みに、ドルシュはだらしなく鼻の下を伸ばしている。

「参りましょう」
 セリスティアが歩き出すと、そのあとを騎士団長が続いて歩いて行く。
 ほっとしたリーズロッテは違和感に自分の腕を見た。王女は女性にしては妙に体が硬かったように感じる。

「お前がしゃしゃり出なければ俺が殿下をお支えしたものを」
 悔し気なドルシュに、本音はそれか、と苦笑がもれる。
 彼はすぐに取り巻きに囲まれ、リーズロッテは押し出された。

「ドルシュ殿が王女殿下の近衛になられる日も近いですな」
「身分も近衛にふさわしい」
「そのあかつきには殿下に見初められることでしょうな。いや、今日の御活躍ですでに」
 ドルシュはまんざらでもない顔をしている。リーゼロッテは今のうちにと距離をとる。
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