聖女王子とスパダリ女騎士 ~王女の護衛のはずが、寵愛を受けています~
「没落した男爵の娘が近衛になることは、決してないだろうなあ」
「没落したからって、女が騎士の真似事とか」
「金のために騎士になったんだ。恥を知れ」
 その背にドルシュたちの罵詈雑言が届く。

 このケンカを買っても良いことはなにもないのだから、黙ってやり過ごすのが賢者というものだ。だからいつも無視しているのだが、それでも彼らは口を閉ざさない。
 あきれてすくめた肩を、別の兵士に軽く叩かれた。

「リズ、さすがだな」
「また手柄をあいつに渡すのか」
「欲がないな」
 隊の仲間に声をかけられ、笑みを返す。

「実際、出世などしたくない。魔獣のほうが書類と戦うより楽だ」
 隊のみなはリーズロッテこそが実力者であることを知っている。そして、実践では身分などなんの役に立たないことも。だから負け惜しみに耳を傾ける必要などないのだ。
 リーズロッテは倒した魔獣を片付けるべく、兵たちに交じった。



 訓練後、リーズロッテは団長に呼ばれて団長室に向かった。
 既に身を清め、訓練着から軍服へと衣装を改めている。
 血まみれの訓練着を洗濯に出したらまた高額な追加料金をとられるな、呼ばれたのは説教かな、などと思いながらも団長室の扉をノックして、許可を得て入室する。

 彼の執務室は相変わらず簡素だった。
 背後に国旗が掲げられた机の前に、彼は座っていた。白髪交じりの砂色の髪の下の顔には歴戦の証である傷があり、黒い軍服の襟には位を示す徽章がついている。
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