聖女王子とスパダリ女騎士 ~王女の護衛のはずが、寵愛を受けています~
「身を挺して王女をかばったが、殿下の魔術ならば自力で御身をお守りになるとは思わなかったか? そもそも結界があるのだから王女に襲いかかることはできまいよ」
「守護対象に自身を守らせるなど騎士の恥。結界に頼るのも同様。自力で守ってこそ騎士」
「訓練であってもか?」
「訓練でできぬことは本番でもできぬでしょう」
 リーゼロッテの毅然とした答えに、団長は満足そうな笑みを見せた。

「魔獣退治に行けば死体の山、街に出れば女性たちの黄色い声を独り占め。そんなお前に、次の任務だ」
 リーズロッテは固唾をのんで次の言葉を待つ。団長が直々に告げる辞令とは、ただごとではない。

「王女殿下がお前を近衛に指名して来た」
「は? なぜ私を!?」

「わかっているだろう。ひとつ。身分が低く、没落しているからどの派閥にも属していない。ふたつ、女である。王女殿下をお守りするには女のほうが都合がいい場合がある」
「しかし、今までは……」

「状況が変わったんだろうな。良くない方向に。王子派は小さな芽でも摘んでおきたいのかもしれん」
「立太子の式もすませているというのに」
 リーズロッテは顔をしかめた。

 第一王子派は安泰だというのに欲をかいた連中はそれでも安心できないらしい。
 この国の王は王妃をふたり持つことができる。
 第一王妃は外国から嫁いできたプライドの高い美女だ。彼女が産んだ王子は王太子であり、現在、三十歳。好色で無能、性格がねじ曲がっている、そんな噂が届くばかりだ。

 昨年亡くなった第二王妃は国内の貴族から選ばれた。美しく気立ての良い女性で、王女を産んだ。
 王女は亡き王妃に似て美人で気立てが良く魔術の腕は国内随一だが、いかんせん病弱で、二十歳になっても縁談がまとまらない。
 王子の性格の悪さに王女を国王にと推す声もあるらしいが、病弱ゆえにその声は強くはない。
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