フェルナンドの薔薇は王弟殿下の愛で輝く~政略結婚で人族に嫁いだ魔族令嬢は、王弟殿下の優しさで愛を知る~
 ◇

 熱い。まるで火に飲み込まれているようだわ。

 動かす足や腕がきしむ。締め付けられる喉から出る細い息も酷く熱いし、頭の芯がぐらぐらと揺れる。

 ここはどこだろう。
 昏い。煉獄というものがあるのなら、ここがその入り口なのかもしれない。
 不安に鼓動が早まっていく。重たい身体を引きずるように立ち上がり、揺らめく景色を見回した。

「ここは……森?」

 生い茂る樹木の先は昏く、どこまでも続いているようだわ。
 頭上を見上げると木々の間から冷たい月が見え、冷たい風が吹き抜けた。

 ざわざわと木々のざわめきが背中を叩き、くすくすと笑い声が聞こえてきた。

『悪魔が来るよ。悪い子は、煉獄に連れていかれるよ』

 ぞくりと背筋が震えた。

『ほら逃げないと。魔族は煉獄に連れていかれる』
「……誰!? 誰か、いるの!?」
『足音が聞こえないの? 悪魔はそこにいるよ。ほら逃げないと』

 どこから聞こえてくるのかわからない声に、背中を叩かれたようだった。
 震える足で踏み出す。

 ひたりひたりと石畳を蹴った。そのたびに身体が痛む。それでも、走った。
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