フェルナンドの薔薇は王弟殿下の愛で輝く~政略結婚で人族に嫁いだ魔族令嬢は、王弟殿下の優しさで愛を知る~
 力なくベッドに置かれる小さな手を握りしめ「リリアナ」と呼べば、わずかに指が動いた。
 熱い指先を握り、ただ祈るしか出来ない。
 帰っておいで。目を覚ますんだ。

「もうすぐ、デイジーとサフィアも来るぞ。君が目を覚ますのを、皆、待っている」

 今日、熱が下がらず目も覚まさずだったら。考えると恐ろしかった。

「私を置いていかないでくれ……」

 込み上げる涙をこらえていると、寝室の扉がノックされ、デイジーとサフィアが姿を見せた。

「おはようございます、殿下。リリアナ様は……」

 おはようと言葉を返すことも出来ず、ゆっくりと首を振る。その時だ、リリアナの手からすっと熱が引いていった。

 驚き弾かれるようにベッドへと視線を移すと、小さな唇が動いた。音が発せない程、弱々しい動きだったが、確かに唇が動いた。
 もう一度、何かを訴えるように、唇が動く。──助けて、と。
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