フェルナンドの薔薇は王弟殿下の愛で輝く~政略結婚で人族に嫁いだ魔族令嬢は、王弟殿下の優しさで愛を知る~
「デズモンドの音楽は、兵士を鼓舞するものでした」
「うん、それはこちらも同じだ」
「そうなのですか? でも、さっきは……」
「平和だから、新しい音楽が生まれただけだ」
「……平和とは、よいものですね」

 初めて訪れたときは、この街の雰囲気を居心地悪く感じたのよね。今は、デズモンドもこうなればいいのにと思ってしまう。
 
 魔王様の顔が脳裏にちらついた。
 今でこそ、魔王様の力で魔物の進行を止めることが出来ている。それは仮初の平和。庶民はいつだって怯えている。そんなデズモンドも、いつかは誰もが笑える場所へと変われるのかしら……

「リリアナ、気になる店はあるか?」

 エドワード様の優しい声が、私を現実に引き戻した。

 いつの間にか俯いていたみたい。
 慌てて顔をあげると、穏やかな若葉色の瞳と目があった。優しい光が、少し寂しそうに細められる。

 私はどんな顔をしていたのだろう。エドワード様からはどんな風に見えたのか。

「あ、あの、旦那様……」
「時間はあるから、ゆっくり見よう。あそこはどうだ?」
< 49 / 275 >

この作品をシェア

pagetop