寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
 このまま命を落とせば、夏希は己の父親が誰か知らぬまま、祖母に育てられるだろう。
 最悪の場合は、施設送りになる。

 ――それをかわいそうだと思えない時点で、私の心はすでにガタが来ているのかもしれない。

 こんな状態であの子を育てたって、娘を幸せにできるとは到底思えなかった。

 だから、このまま人生を諦めよう。
 お父さんのところにいけるんだと思ったら、身体が炎に飲み込まれる恐怖さえもいつの間にかどこかへと消え去っていた。

「しっかりしろ!」

 ――私が死を覚悟し、目を閉じた時だった。
 防護マスクに覆われ、くぐもった男性の声が聞こえてきたのは。

「今、助ける!」

 彼はゆっくりと瞳を開いたこちらへ一声かけると、自分では動かせぬ身体を軽々と持ち上げる。
 そうして仲間たちと連携を取り、フードコートを足早に立ち去った。

「む、娘が……っ」
「心配いらない。君が来るのを、待っている」
「え……?」

 パニックに陥りそうになった私に、彼は優しい声をかけてくれる。
 その口調に違和感を感じて表情を見ようとするが、顔立ちは防護マスクのせいで窺い知ることは困難だった。
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