寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「後悔しないの?」
「君が行方を晦ました際、一生分した。もう二度と、あんな気持ちは味わいたくない」
「夏希があなたに、懐かないかもよ」
「そうしたら、君以上に甘やかして育てればいいだけの話だ」
「止めてよ。ぽっと出の父親が、私の教育方針に指図しないで」
「今日はいつもにも増して、機嫌が悪いな。まぁ、そんな姿も愛らしいが……」

 彼は夏希が眠っているのをいいことにこちらの迷惑も顧みず、身体の至るところに所有印を刻み込む。
 まるで私は、自分の物だと周りの男性に知らしめるかのように……。
 普段と変わらぬ無表情がデフォルトな片平さんは再会を喜んでいるようには見えなかったけれど、態度が急変したあたりそれなりに彼も思うところがあるらしい。

 ――こういう愛は、私ではなくて夏希に向けてくれたらいいのに……。

 私は渋々婚姻届の署名捺印を済ませ、彼に手渡した。

「これでいい?」
「ありがとう。これは俺が出しておく」
「うん」
「これからのことだが……」

 夏希の父親が現れた。
 紆余曲折の末結婚します。
 それだけで話が終われば苦労はしない。さまざまな手続きが必要になるからだ。
 保育園からほど近いここは、1Kマンション。
 とてもじゃないが家族3人で暮らせるだけの広さはなかった。
< 40 / 65 >

この作品をシェア

pagetop