寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
『申し訳ないと謝るくらいなら、お父さんの分まで生きて』
『希美ちゃん』
『あの人の分まで、私を幸せにしてよ』

 そうしてあの人を誘惑して身体の関係を持ち――夏希を宿した。
 彼が私を抱いたのは、そうするしかなかったからだ。
 そこには愛だの恋だのという感情はなく、私たちは後腐れなくワンナイトを終えて別れるはずだった。
 なのに――。

『希美ちゃん』

 あの人が笑うたびに、心臓がドキドキと高鳴った。

『好きだ』

 愛を囁かれるたびに、罪悪感ばかりが募る。

『必ず俺が、幸せにする』

 決意を込めた瞳を向けられるたびに、お父さんが生きていたらなんて言っただろうかと考えた。

『ついに希美も、武彦(たけひこ)くんと結婚するのか! 誰がどう見ても、相思相愛なのは明らかだったからなぁ』

 両親はきっと、彼との結婚を喜んでくれたはずだ。
 夏希が生まれたと知ったら、孫を抱き上げてかわいがってくれたに違いない。

 ――ねぇ、お父さん。
 どうしてあいつなんて庇って、死んでしまったの?

 どれほど幻影に問いかけても、答えは返ってこなかった。
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