サイレント&メロディアス
いっしょに片づけをし、早めに寝室のダブルベッドに入った。電池式のライト兼アロマディフューザーが紅茶とラベンダーの香りを、サイドテーブルの上でほんのり発していた。
白い羽毛布団に潜り込み、小学生の修学旅行みたいにしばし暗闇で見つめあったら、おかしいやら息が苦しいやらですぐに顔を出し、
また顔を見合わせて笑った。さおりさんの幼なじみになった気分だった。さおりさんのことが小さい頃からずっと好きな幼なじみ。「おおきくなったらさおりおねえちゃんとけっこんするんだ」って決めている生意気な年下の男の子に。
「俺、
あなたと小さい頃からいっしょにいたかったです」
俺が素直にそう言ったら、さおりさんが目を丸くした。
「小さい頃からあなたといっしょにいて、いっしょに成長して、そして恋をして結婚したかった」
さおりさんがふふっとでも言いたげに優しく、でもいたずらっぽく笑う。このひとはしゃべらない分、笑顔のバリエーションが豊富だ。
そして、
さおりさんがそっと俺の左頬にあたたかい右手を添えた。

どちらからともなく唇を重ねた。幸せで幸せで胸がはちきれそうなのに、ほんのちょっとビターな味もした。

これからもきっとさおりさんの声を聞く機会は少ないだろう。でも俺は「もっと愛してるって言って」とは言わない。その分、俺がさおりさんにそう言うから。伝えるから。
さおりさん、冬のボーナスが入ったら、ちょっとだけリッチなデートをしましょうよ。いつもよりほんのちょっとだけリッチな気分になるデートをね。何をしましょうか。さおりさんの好きなことをしましょう。
俺の腕がさおりさんの背中にまわり、さおりさんの腕が俺の首にまわり、キスがさらに深く甘くとろけるようなものになる。脳も身体もしびれそうなくらい濃厚なキスに。
(俺は楽しみにしてるんですよ。さおりさん)

俺たちは、
来年の4月、結婚式を挙げる。
あなたは俺に言ってくれるだろうか。その時。神父さんに「病めるときも健やかなるときも、このひとといつくしみあい、愛し合って過ごすことを誓いますか」と聞かれて、「誓います」と。神聖なチャペルで、大切なひとたちに見守られて。
いや、言ってくれなくたって良いんだ。声に出してくれなくなって。それはさおりさんの自由だ。
だから、俺が何度でもあなたに伝えるよ。「愛してる」って。「好きです」「あなたがいちばん大切です」って。
そうしたらあなたは嬉しそうに笑ってくれるでしょう? 俺にしか見せない最高の、世界でいちばん美しくてあたたかい笑顔で。(約束して)


2025.10.03
蒼井深可 Mika Aoi
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