それも、初恋。。

5月の河川敷で

 五月の早朝はちょっと肌寒い。

 寝みぃ~とあくびしながら河川敷の先に聳える寿老人ホームに向かって自転車を漕ぐ。
 少し先の方に、ママチャリをじゃかじゃか走らせる泉を発見した。

 今のところ1年生の介助実習はA組から順番に2クラスずつ合同で行っているので、朝は必ず河川敷で泉と会う。
 朝が苦手というわりに、俺より清々しい表情でママチャリを漕いでいる泉。

 友達と一緒じゃない時の泉はいつもと雰囲気が違う。

 それをしばし眺めた後で、ペダルにぐっと力をこめて、一気に泉との距離を詰めていく。

「うっす、泉」
 呼びかけた瞬間、いつもの泉になっている。こいつのこれは一体どういうことなんだろう。
 ふと、泉のくせ毛に緑色の何かが付いているのが見えた。

「あ、髪に」

 手を伸ばした瞬間。

 ズザザザー、シュッ!!

「へ?」
 ママチャリにあるまじき俊敏な動きで、泉の自転車が俺から飛び跳ねるように距離を取る。

「え?」

 そんな離れ業を見せた後「何か?」的な雰囲気で、平然とする泉。

「……今のBMX的な技、どうやったん?」
 平常心。

「いや……私にもわからん」
 平常心。


「お前、なんつー運動神経してるわけ? つか葉っぱ刺さってんぞ」
 何でもない風を装って、笑い飛ばす。

「え?」と、泉が片手をくせ毛に乗せて。

「あ、ホントだ……ウケる」

 ウケると言いつつ、ちょっとムッとしながら葉っぱをどかしている。

 平常心。

「つかさ、朝からじいさんばあさんの文句聞くのかって思ったら、萎えんだけど」
「それ、全国の高校生が思ってますなー」

 心臓に鈍い痛みを覚えながら、泉といつも通りのどうでもいい話を喋り続ける。


 頭の中で電話越しの直太の声が勝ち誇ったように言い放っていた。

『女子ってさー、脈ありじゃない男子には、ぜってぇ髪触らせないんだってさー』

 つまり俺は脈なし?
< 67 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop