顔も知らない結婚相手に、ずっと溺愛されていました。
例えば運命というものが本当にあったとして、今日のこの日を迎えるために私のこれまでの不自由な人生があったのだとしたら、私は喜んで受け入れる。
これまでの苦労がこの日のためにあったのだとすれば、私はいくらやり直すチャンスがあったとしてもまた同じ道を歩むと思う。
「私、あなたのことが……好きですっ」
「……ありがとう。俺も千代ちゃんのことが好きだよ」
「初めて人を好きになりましたっ。誰かを愛するっていう意味を知りましたっ!この気持ちを、ずっと冨羽さんに向けていたい……っ。冨羽さんのことが好き、大好きです……っ!」
再び溢れ出てくる涙を流しながら、それでも最後まで言い切った。
すると冨羽さんは思いきり私を力強く抱きしめた。
初めて出会ったときのように、ウッディの匂いが鼻を掠めた。
「俺もだよ。最初は結婚なんて興味なかったし、周りがうるさいから適当に親が決めた人でいいやって、そんなふうに思ってた。一番にいいなと思ったのは君の名前。千代っていう名前が可愛いなと思った。それから俺の結婚相手である千代ちゃんがどんな人なのか調べようと思っていたところへ、君は自ら俺の店に来てくれたね。一緒に過ごして行くうちに、君が純粋に笑っているところとか、楽しそうにしているところとか、一生懸命ご飯を作ってくれるところとか、高いものじゃなくても、アイス一つで喜んでくれるところとか、そんなところに惹かれていったんだよ」
「……っ!」
「これからもさ、俺と一緒にいろんなことを経験していってくれない?」
「……はい」
「好きだよ、千代ちゃん」
抱きしめられたまま、耳元でそう囁いた冨羽さん。
あたたかくて、愛おしくて、落ち着く匂いが何より私に安心感と幸福感を授けてくれる。
「じゃあこれからは同居人じゃなくて、恋人……だね」
「あ、改めてよろしくお願いします!」
「でも寂しいからまた一緒に住まない?」
「え!?」
「俺、もう千代ちゃんのいない家とか考えられないかも」
「……!」
「親の意見とか世間体とか、そんなの全部無視して、これからは二人で全部決めて生きていこうね」
人より何倍も早くやってきた、私の第二の人生が、今幕を開ける──。
【完】


