顔も知らない結婚相手に、ずっと溺愛されていました。
「俺が千代ちゃんの婚約者だって言ったら絶対に拒否されると思った。それだったらいっそのこと正体を隠したまま仲良くなれたらいいかな、と思って君を家に招いたんだよ」
「そう、だったんですか」
「ごめんね、結果的に君をこんなふうに騙すことになってしまって」
「い、いえ!私も、その、ずっと冨羽さんに婚約者のことや父のことを黙っていましたから……その、お互い様、っていうか」
「俺のこと、嫌ってない?」
私の顔を覗き込むようにそう問いかける冨羽さん。
けれどその言葉とは裏腹に、なんだかずっと顔がニヤけているように見える。
「わ、笑っていますか?」
「だって千代ちゃんのあんな本音を大声で聞けるなんて思ってもなかったからね!?今俺めちゃくちゃ嬉しいんだよ!」
「なっ!わ、忘れてください!まさか本人に聞かれるとは思ってなかったから……!」
「本人ってことは、あれ、俺のことだって思っていいんだよね?」
「そ、それは!」
「ねぇ、千代ちゃん。もう一回、俺の前で千代ちゃんの気持ちを聞かせてくれない?」
ベンチに座っている私に覆い被さるように、まるでもう逃さないよと言いたげに冨羽さんは私の行き場をなくしながらそう言った。
私も、これ以上視線を逸らすことをやめて、初めて彼と向き合った。
「何もすぐに結婚っていう形を取らなくたっていいんだよ?俺の両親に言えばきっとその辺は望み通りにしてくれるはずだから」
「……」
「君のお父様でもない、俺の両親でもなければ、俺でもない。千代ちゃんがどうしたいのか、どう思っているのか、聞かせてもらえない?」
冨羽さんのいつになく熱い視線に、私はまた絆されていく──。