顔も知らない結婚相手に、ずっと溺愛されていました。
……そうだ。
本来、大人になった私がどこで何をしていようと自由なはずだ。
私がお酒を飲もうと、家を出ようと、人前で転ぼうと、自由じゃない。
それなのに、どうして私は未だに父に囚われているんだろう。
どうして私は未だにお母さんに会えないんだろう。
「……うぅっ、なんでなのよ!」
ポロポロと溢れ出てくる涙が、バーの床に一つ、また一つと水玉模様を描いていく。
結婚くらいは自由だと思っていた。
今のご時世、親に結婚相手を決められることなんて絶対にないと思っていた。
けれど父は最後まで私の人生に干渉し続けてくる。
顔も知らない人と結婚させられたあと、きっと父は自分の跡取りとなる息子を産めだなんてことを本気な顔をして言ってくるだろう。
──嫌だ。
そんなの絶対に、嫌だ。
もうこれ以上、あの人の操り人形にされたくない。
「嫌だ、嫌だ」と心の中で何度も唱え続けながら、床についたままの手を爪が食い込むほど強く握りしめたときだった。
「──手、痛いんじゃない?」