悪魔的生徒会長が妙に甘いのですが……。
誰かがわたしの背後に忍び寄ってきたことにようやく気が付いたのは、階段を下りるために一段足を進めたときだった。
ふわり、と甘い柔軟剤か何かの香りが鼻を撫でた。
どこかで嗅いだことのある気がする、果物のような匂い。
それを知覚したのとほぼ同時だった。
「え」
思わぬ強い力が背中に加えられた。
偶然ぶつかったとかそんな感じではない。
背中に伝わったのは、人の両手の感触。悪意のある力。
予測不可能なその悪意に、足の裏が階段を踏むことが叶わなかった。
……死ぬかもしれないと感じた瞬間、周りがスローモーションに見えるという話は聞いた事があった。
今まさにわたしは、それを体験している。
だけどスローモーションに見えたからといって、回避行動が間に合うわけではない。
迫り来る地面に対してできることは目を閉じることぐらい。
直後に襲われた強い衝撃と痛み。
わたしの記憶はそこで途切れた。