見上げた星空に、奇跡が降る

17 距離を繋ぐ光

 
     ―迷い猫― 

 約束の時間が近づくにつれて、落ち着かなくなっていた。

 時計を何度も見ては、窓の外の空をのぞく。

 カーテンを大きく開けたのは、いつぶりだろう。

 冷たい空気が部屋に流れ込み、少し身震いする。

 パソコンを開き、メッセージ欄に短く打ち込む。


 =準備できました=


 すぐに返事が返ってきた。


 =僕もです。じゃあ、まず一番明るい星を探しましょう。南の空の低いところにあります=

 南の空……窓から見える範囲をゆっくりなぞるように目を動かす。

 その中で、ひときわ強く輝く星があった。

 あ、これかも。


 =……見つけました。すごく明るいです=


 返事を送ると、彼の説明が続く。

 シリウス――初めて知る名前なのに、もう特別な響きに思えた。

 言われた通りに視線を左上へ移す。

 ほんのり赤みを帯びた星が見える。

 ベテルギウス……これも覚えておこう。

 最後に、二つの星を結ぶようにして白い光を探す。

 あった。三つの星が頭の中でつながって、大きな三角形の形になった。


 =……三つ、線でつながりました=


 私は感動で震えてる。

 同じ形を、彼も今、きっと見ている。

 会ったこともないのに、こんなにも近く感じるのは初めてだった。


 =これが冬の大三角です。……きれいですよね=

 =はい。なんだか、見つけられたことがすごく嬉しいです=


 返事を打ちながら、窓の外の三つの光をもう一度見上げた。

 それらは、冷たい空の中で静かに瞬きながら、私たちをつないでくれているように見えた。




 三つの光を見つけたあとも、しばらく窓の外を眺めていた。

 冷たい空気は頬を刺すけれど、不思議と心は温かかった。

 彼と同じ空を見ている……それだけで、部屋の中の孤独が薄らいでいく気がした。


 =今日は外が静かで、虫の声も車の音もなかったです=


 何気なく送った一文に、すぐ返事が来る。


 =それは観測しやすいですね。こっちは少しだけ風があって、望遠鏡が揺れました=


 こうやって、ほんの小さなことを話せるのが嬉しい。

 天気のこと、空の明るさ、街灯の位置……今まで誰にも話さなかったようなことまで、自然に口にできる。

 ふと、指が止まった。

 ……この流れで、もっと自分のことを話せるだろうか。

 私が学校に行っていないこと、ずっと家に引きこもっていること。

 もし言ったら、彼はどう思うだろう。

 がっかりするかもしれない。

 返事がこなくなるかもしれない。

 それでも……私の事を知ってほしい。

 考えるだけで、胸の奥がざわざわして落ち着かなくなる。

 キーボードの上で何度も指が動き、消しては打ち直す。


 =……実は、私……=


 ここで手が止まった。

 けれど、今なら、ほんの少しだけ言える気がした。

 彼と同じ星を見つけられた夜だからこそ、話せることがある。


 =……実は、学校には行っていません。ずっと家にいます=


 送信ボタンを押す直前、深く息を吸い込んだ。

 その一行が、私と彼の間にどんな変化をもたらすのか――怖くて、でも知りたかった。


 私はその言葉を送った。
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