恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?
びっくりした……。私なんかが書いた作品が、こんな風に誰かに影響を与えて、誰かの支えになっていたなんて……。
万人に受けなくても誰か一人に届けばいい。そんなふうに思いながら書いていた小説が、本当に誰かに届くところを私は初めて見た。
ネガティブな私は、どうせネットの書き込みやレビューも酷評ばかりだと思っていたから、わざわざ見に行くこともしなかった。
けれど、こんな風に思ってくれる人もいるんだ。
十年も書いていてやっと、私は私の意味を見い出せた気がした。
私が恐縮しきっていると、氷上さんは明るく笑う。
「そんな琴葉先生が、まさか最近は恋愛小説をメインにしているなんて、思いもしませんでした」
「あ、え、はは……」
氷上さんの言葉に、私はぎこちない笑みで返す。
「青春小説も良かったですが、恋愛小説もすごくいいです。私も読んでいますが、ヒロインのピュアな恋愛観や、ヒーローの真摯なキャラクターがとても魅力的です」
「あ、ありがとうございます……」
えへへ、と気持ち悪い笑みを浮かべながら、私は愛想笑いで返すことしかできない。
「恋愛小説は恵さんのお力添えも大きいので……」
「そうですか。私も琴葉先生のお力になれるよう、頑張りますね。ではそろそろ本題に入りましょうか。お送りいただいた次回作のプロットについてですが……」
氷上さんは私のプロットをよく読み込んでくれていて、的確なアドバイスをくれる。
私はそれを聞きながら、慌ててメモをとった。
なんだか高そうな時計してるな、とか、ペンを握る手がごつごつとしていて男性の手って感じだなとか、真剣に話す氷上さんにこれは相当モテるぞ、などとたまに集中力を欠きながらも、その日の打ち合わせは終わった。
「長々と失礼いたしました」
「と、とんでもないです!こちらこそ、ありがとうございました……」
玄関先でぺこりと頭を下げると、氷上さんはまた爽やかな笑顔を浮かべて「それではまたなにかあればご連絡ください」とこれまた爽やかに去っていった。