恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?

「では、私と付き合ってみましょう」
「…………………………え!?」

 たっぷり十秒くらいの間を置いて、私は驚きの声を上げる。
 氷上さんは表情を変えることなく、淡々と話し始める。

「琴葉先生は、恋愛経験があまりないようにお見受けしたので、実際に体験してみた方がいい文章が書けるのではないかな、と思ったんです」
「ぐっ……」

 恋愛経験があまりないようにお見受けした……、めちゃめちゃバレてる……。

「み、見た目でわかりますか……」
「見た目というよりは、文章でしょうか。ストーリーもキャラクターもすごく生き生きとしていて良いのですが、リアリティがもう少しあってもいいのかな、と思っていて」
「り、リアリティ……」

 そんなものあるわけない。当然だ。だって恋愛経験皆無の恋愛作家だもの……。

「だ、だからって氷上さんと付き合うというのはちょっと……」
「私は、美琴さんのこと好きですよ」
「ひえっ!?」

 突然の本名呼びに、好き、なんて告白めいたことを言われ私は息を飲む。
 そ、それは私の小説が好きと言う話では……と思いつつも、上手く言葉が出てこない。
 好き、だなんて言われたこと、人生で一度もなかった。
 え?なに?冗談?私をその気にさせて小説を書かせようという魂胆!?編集がよくやる手?いやいやそんなわけない。
 向かいに座る氷上さんは、穏やかな笑みを湛えている。
 読めない……。どういう意図でそんな提案をしてきたのか……。
 単に私の描写力不足を補うためなのか、本気で私のことが好きなのか……。

「そういうわけなので、明日、早速デートに行ってみましょう」
「へ?」

 私がもだもだと考え込んでいるうちに話しが進んでいく。

「こちらでプランは練っておきますので、また明日の朝11時頃、お伺いします」

 氷上さんはそう言って爽やかに玄関を出て行く。

「え……?」

 一人残された私は、金魚のように口をぱくぱくさせるしかなかった。

「付き合うって、……本当に!?」

 事態が全く呑み込めない私は、ぼんやりしたまま当日を迎えることになるのであった。


< 17 / 37 >

この作品をシェア

pagetop