恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?
「では、私と付き合ってみましょう」
「…………………………え!?」
たっぷり十秒くらいの間を置いて、私は驚きの声を上げる。
氷上さんは表情を変えることなく、淡々と話し始める。
「琴葉先生は、恋愛経験があまりないようにお見受けしたので、実際に体験してみた方がいい文章が書けるのではないかな、と思ったんです」
「ぐっ……」
恋愛経験があまりないようにお見受けした……、めちゃめちゃバレてる……。
「み、見た目でわかりますか……」
「見た目というよりは、文章でしょうか。ストーリーもキャラクターもすごく生き生きとしていて良いのですが、リアリティがもう少しあってもいいのかな、と思っていて」
「り、リアリティ……」
そんなものあるわけない。当然だ。だって恋愛経験皆無の恋愛作家だもの……。
「だ、だからって氷上さんと付き合うというのはちょっと……」
「私は、美琴さんのこと好きですよ」
「ひえっ!?」
突然の本名呼びに、好き、なんて告白めいたことを言われ私は息を飲む。
そ、それは私の小説が好きと言う話では……と思いつつも、上手く言葉が出てこない。
好き、だなんて言われたこと、人生で一度もなかった。
え?なに?冗談?私をその気にさせて小説を書かせようという魂胆!?編集がよくやる手?いやいやそんなわけない。
向かいに座る氷上さんは、穏やかな笑みを湛えている。
読めない……。どういう意図でそんな提案をしてきたのか……。
単に私の描写力不足を補うためなのか、本気で私のことが好きなのか……。
「そういうわけなので、明日、早速デートに行ってみましょう」
「へ?」
私がもだもだと考え込んでいるうちに話しが進んでいく。
「こちらでプランは練っておきますので、また明日の朝11時頃、お伺いします」
氷上さんはそう言って爽やかに玄関を出て行く。
「え……?」
一人残された私は、金魚のように口をぱくぱくさせるしかなかった。
「付き合うって、……本当に!?」
事態が全く呑み込めない私は、ぼんやりしたまま当日を迎えることになるのであった。