恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?

「そうだ。今日はデートなので、敬語はなしにしましょうか」
「えっ!」

 氷上さんの唐突な提案に、私は素っ頓狂な声を出す。

「彼氏彼女の間柄で敬語はおかしいでしょう?」
「え、あ、はい……そうですかね?」

 デートというだけでも私にとってはかなりのビッグイベントなわけだけれど、どうやら彼氏彼女設定も生きているらしい。
 曖昧な返事をする私に構うことなく、氷上さんは話を進める。

「では今日は敬語なしでいきましょう。いい?美琴さん」
「え、は、はい……あ、うん……」

 うんと満足そうな笑顔を浮かべる氷上さんは誰がどう見てもスパダリイケメンだった。
 私のネタ出しのためだけにここまでする?普通?
 心が海よりも広い。きっと宇宙くらい広い。
 せっかくここまでしてくれてるんだ、なんとかして世間一般のデートを体験し、その気持ちを小説に落とし込むぞ!
 急に謎のやる気と気合が湧いてきた私は、歩調を合わせてくれる氷上さんに迷惑が掛からないよう、目一杯その短い足を延ばして地面を蹴った。


 氷上さんは車を近くに止めていて、私達はそれに乗って出掛けた。
 なんかよくわからんけど、高級車っぽい車だ……。
 車の銘柄には全く詳しくはないけれど、なんだかピカピカとしていかついフォルムに、高級車であろうことは窺えた。
 がちがちに緊張する私に、「気楽に過ごして」と氷上さんは笑う。
 氷上さんのタメ口、なんかいいな……。と謎のキュンを感じる。
 普段敬語でびしっとしてる人が、特別な人の前でだけ使うゆるっとしたタメ口。いいよね、萌えるよね……。
 そんなことを思っていると、氷上さんが急にこちらに顔を寄せる。

「ひっ……」

 しかし氷上さんは真剣に車の後方を覗いているだけだった。慣れた手つきでハンドルを切り、車が駐車場を出発する。
 男性に耐性がなさすぎて、ちょっと距離が近いだけでドキドキするのやめろ私っ……。恋愛経験なしの弊害が所々にっ……。

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