転生小説家の華麗なる円満離婚計画

 気を取り直して、私とヘンリックは腹ごしらえに集中した。

「どれもこれも美味しいわ!
 やっぱりお城の料理人はいい腕してるわね」

「我が家の料理人も負けてないと思うけどね。
 豪華さでいったら、こっちに軍配が上がるのかな」

「こういう料理にも今度挑戦してみようかしら。
 うーん、メモできたらいいのに!」

 私の前世はごく普通の一般人だったので、ここに並べられているような豪華なパーティ料理なんて縁がなかったのだ。

 ピンチョスに使われている食材の組み合わせとか、サラダのきれいな盛り付け方とか、香ばしく焼かれた肉のスパイスと付け合わせとか、私には思いつかないものがたくさんありすぎて、とても全ては覚えられない。

「我が家の料理人も、ある程度これに近い感じのをつくれる思うよ。
 相談してみたら?」

「ええ、そうね。そうしてみるわ」

 美味しい料理を味わうのと同時に、私は久しぶりの夜会の会場をしっかり観察した。
 
 もちろん、これは創作に役立てるためだ。
 私は社交界から遠ざかっていたから、このような華やかな場面の描写がいまいち苦手だったのだ。
 
 色とりどりの美しいドレスを纏った女性たちが、パートナーの手を取ってダンスホールでくるくると踊っている。
 真剣な顔をして話している数人の男性たちは、仕事の関係者なのだろう。
 結婚相手を探しているらしい年若い令嬢たち、火遊びの相手を探しているらしい妖艶な未亡人。
 せわしなく動き回っている給仕係、壁際で目を光らせている衛兵。
 
 前世だったらスマホのカメラで簡単に記録を残すことができたのに。

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