転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「せっかくだから、一曲くらいダンスするかい?」

 それはそれで楽しそうだと思ったが、私は首を横に振った。

「やめておくわ。
 あなたのダンスは、マリーのためにとっておいてあげてほしいの」

 可愛いマリアンネは、いつかヘンリックと正式な場でダンスをするのを楽しみにしている。
 私たちがこの夜会に参加しているのは、その願いを叶えるためでもあるのだ。

「あ、自称聖女がいるぞ」

 ヘンリックの視線を追うと、背の高い細身の男性にエスコートされたカリナがいた。
 ピンク色なのは先日のドレスと同じだが、デコルテを限界ギリギリまで広げたようなデザインで、豊かな胸がこぼれ出ないかハラハラしてしまう。
 
 ヘンリックには劣るが十分に人目を惹く容姿をしたあの男性が、騎士崩れの役者なのだろう。
 検証の結果、カリナと同衾した男性は腕力やら魔力やらが上昇することが証明されたのだそうだ。
 現在、それがどこまで上昇するのかというのを確かめるため、検証はまだ続けられていると聞いている。
 本来は増えるはずがない魔力量が増えるならと協力を申し出る人もそれなりにいるということで、検証する役目がヘンリックに回ってくることはなくなり、私たちは手を取り合って喜んだものだ。

 カリナはなにをどう説明を受けているのかわからないが、美しいパートナーを見せびらかすように得意気な会場を歩き回っている。

「すごいドレスだな……」

 ヘンリックは形のいい眉を寄せた。
 カリナの胸の谷間に視線が吸い寄せられている男性が多数見受けられるが、ヘンリックのように眉を顰める男性も多い。

「さすがに大丈夫だと思いたいけれど、また絡まれたら面倒ね」
 
「そうだね。あれには近寄りたくないな」

 私とヘンリックはカリナに背を向け、目立たないように壁際に移動した。

 美味しい料理は十分に堪能したので、もうすぐ起きる予定の大事件に備えるためだ。

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