転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「ヨーゼフも来ているのですか?」

「ああ、来るときは一緒だった。
 どこかその辺で友人と話でもしていると思うよ」 

「ヨーゼフの友人といえば、フローエ公爵家の方がいらっしゃいましたね。
 今も懇意にしているのでしょうか」

「フローエ公爵家? さあ、どうだったかな」

 父はチラリと母を見たが、母は青ざめたまま固まっている。
 
「実は、私とヘンリック様が出会ったのは、ヨーゼフとフローエ公爵家のご友人のおかげなのです」

 ヨーゼフは、フローエ公爵家の放蕩息子に私を売ったのだ。
 それがきっかけで私たちは出会ったというのは本当だが、だからといってそんなことをしたヨーゼフを恨んでいないわけではない。

「そうだったのか。それは知らなかった」

「あれがなければ、私は妻と出会うことはできませんでした。
 私も、私の両親もとても感謝していますよ」

 なにも知らないらしい父に、ヘンリックが表面上にこやかに応え、母はさらに顔色が悪くなった。
 私たちが出会うことになった原因を、ヘンリックもフューゲル侯爵夫妻もよく知っている、と言外に伝えたのだ。

「もう三年も前のことですけど、なにをしたのかヨーゼフに聞いてみてください。
 きっとお父様もヨーゼフのことを誇らしく思うはずですわ」

「ああ、そうしてみようか……」

 やっと不穏なものを察知したらしい父は、視線をさまよわせながら歯切れが悪い返事をした。
 帰宅してから父は母を問い詰め、ヨーゼフがしでかしたことを知ると、フューゲル侯爵家が塩対応な理由に納得するのと同時に激怒するだろう。 

「では、私たちはこれで失礼します。
 行きましょう、ヘンリック様」

「ああ、それでは」

 立ち去る私たちを、両親が引き止めることはなかった。
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