転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「おまえ、何者だ!」

 果敢にも誰何の声を上げた衛兵を無視し、エルヴィンはすたすたと歩き始めた。

 その向かう先には王族専用の席があり、国王陛下と王妃様がいる。

「止まれ! 斬られたいのか!」

 構わず歩き続けるエルヴィンに衛兵の一人が斬りかかったが、翼にあっさりと弾き飛ばされてしまった。
 撫でると手触りのいい羽毛は実はかなり頑丈で、斬撃を受けても傷一つついていない。
 
 これはまずいと顔色を変えて複数同時に斬りかかった衛兵たちは、全員が同時に翼とエルヴィンの手に現れた鞭のように動く黒い霞に叩き伏せられ、彼の歩みの妨げにもならなかった。

「陛下をお守りしろ! 全員でかかれ!」

 護衛騎士の一人が魔法で氷の礫を放ったが、彼は片手でそれを払い落した。
 素手で攻撃魔法に触れて無傷なんて、改めて見ると信じられない。
 ヘンリックも目を丸くしている。

 王族の護衛騎士は精鋭揃いなはずなのに、攻その撃魔法も斬撃も彼に到達することはなく、全員があっさりと床に伏せてしまった。

 とはいえ、死者も重傷者もいない。
 せいぜい打ち身くらいで、気絶させられただけだ。

 そうして彼は一度も歩む速度を緩めることなく、国王陛下の目前にたどり着いた。

「おまえは……魔王なのか」

 こんな状況だが、さすがは国王陛下。
 王妃様を背中に庇いながら、眼光鋭くエルヴィンを睨みつけた。

『そうだ』

 エルヴィンの声は、魔法具で大きな魔物の唸り声のような響きになっている。
 とても魔王っぽい仕上がりに、私はひっそりと満足した。

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