転生小説家の華麗なる円満離婚計画
 上手くいった。
 打合せ通り、エルヴィンは見事に魔王を演じきったのだ。

 皆が呆然と黒い塊があった宙を見上げている中、金切声が響いた。

「なんなのよこれ! こんなのシナリオになかったわ!
 私はヒロインなのよ!
 皆に愛されて逆ハーレムになるはずなのにぃぃぃ!」

 それは、自分を聖女だと言い張っていたカリナの声だった。
 
「嫌よ! 魔王の花嫁なんて、絶対にいやぁぁ!」
 
 癇癪を起こして地団太を踏むカリナを、さっきエスコートしていた男性がおろおろしながら宥めようとしている。

 そこから人々は呆然自失状態から覚め、夜会の会場は一気に騒めきに満たされた。

 国王陛下の号令で夜会はそこでお開きということになり、私とヘンリックも馬車に乗って帰宅した。

「エルのやつ、すごかったなぁ。
 正体を知っている私でも、冷や汗がでたよ」

「そうね。完璧な魔王だったわね」

「きみの演出も、すごく効果的だったよ。
 本当に魔王かなんて疑うひとは誰もいないだろう。
 まぁ、疑われたところで、真実を確かめる術なんてないんだけどね。
 正直、バルテン王国の全兵力をもってしても、エルには敵うかどうか微妙なところだと思うよ」

「まぁ! エルったら、そんなに強いのね!
 さすがだわ!」

 手を叩いて喜ぶ私に、ヘンリックは少し複雑な顔をした。

「とんでもない義兄だってことが、改めてよくわかったよ。
 まったく、エルが味方でよかった。
 敵に回ってたらと思うと、ぞっとするよ。
 これも、リサのおかげなんだろうね」

「ふふふ、私の前世の記憶のおかげだと思うわよ」

 カリナが読んだという漫画の中にも私は存在しているのだろうが、おそらく今の私のように前世の記憶を持っていないのだと思う。
 もしこの記憶がなかったら、私は母と弟にいいように虐げられ、どうなっていたかわからない。
 
 とりあえず、計画の第一段階は無事終了することができた。
 帰ったらエルヴィンをたくさん労ってあげようと思いながら、私はとてもいい気分で馬車に揺られていた。
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