転生小説家の華麗なる円満離婚計画
 ヘンリックがなにやら紐のようなものを手に、牢に入ってきた。
 いや、あれは紐ではなく……鞭だ。

 鞭を手にする美貌の青年というのもある意味とても絵になるのだが、それは叩かれる対象が私でなければの話だ。

「知っていることを全部吐け」

 ひゅんと空気を切る音をたてて鞭が石造りの床を叩き、私は震えあがった。

 私を見据えるエメラルドの瞳には、焦燥や憤怒の色はあるが、熱や恋情は欠片もない。
 彼は私のことが少しも好きではないということが、はっきりとわかった。

 私がヒロインなはずなのに、どうして⁉
 なんでこんなにもシナリオが変わってるの⁉

 冷たい表情のまま、彼が私に向かって鞭を振り上げた。

「きゃあああ! やめてぇ!
 吐く! なんでも吐くからぁ!」

 私は知っていることを洗いざらい白状した。

 魔王のことも、私と閨事をすると魔力などが上がるということも、漫画の内容も全て話した。
 途中で質問されたりもしたが、知っていることは正直に答えた。

 彼は私の話を聞きながらメモをとり、最後まで話が終わったところでなにも言わずに出て行った。

 拷問は避けられたということのようで胸を撫でおろしたが、これから私がどう扱われるのかはわからず、牢の中で一人で震えるしかなかった。

 それからどれくらい時間がたったのか、コツコツと足音が聞こえてきてはっと顔を上げた。

 現れたのは、いつもおと同じ甘い笑みを浮かべたエッカルト・アンセルム大公だった。

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