転生小説家の華麗なる円満離婚計画
 不本意ではあるが、それはそうかもしれないとも思った。
 きっとこのイケメンは、頬を染め恥じらう令嬢は見慣れていても、青ざめ怯えている令嬢は見たことがないのだろう。

「離れてくださいぃ……私は、男性が苦手なのです……」

「……失礼しました。
 もう迫ったりしませんから、ご安心を」

 蚊の鳴くような声で訴えると、やっと離れてくれた。
 ほっと息をついた私に、彼は苦笑した。

「疑わしいとは思っていたのですが、やはり噂は嘘だったようですね」

「それは、どういう……」

「もしレディが噂通りに身持ちの悪い性悪女だったら、この状況で私を誘惑しないはずがありません」

 それもそうだ。
 私がアバズレだったら、こんなイケメンに迫られて怯えるはずがない。
 むしろ、こちらからグイグイ迫っていくくらいでないとおかしい。

「噂など、あてにならないものです。
 私は自分の目で見たものを信じます」

「あ……ありがとうございます……!」

 私も過去に何度か噂の内容は真実ではないと弁明しようとしたが、誰も耳を傾けてはくれなかった。
 貴族なんてそんなものだと諦めていたのに、こんな高位貴族の貴公子が私を信じてくれるなんて、単純にとても嬉しい。

 やっぱり彼はいいひとなのだ。
< 13 / 147 >

この作品をシェア

pagetop