転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「……もしかして、あんたのせいなの?
 こんなにシナリオから外れてるのは?あんたがなにかしたからなの?」

「ええ、その通り。
 私はあなたが言ってた漫画は読んでないんだけど、結果として私がいたおかげでこの国の平和は保たれたわ」

 第二王子殿下が亡くなることはなく、ヘンリックも闇落ちせず、アブラッハが枯れることもなく、その後に起こるはずだったらしい不幸も回避することができた。
 エルヴィンがこの国を滅ぼそうとすることもない。

 そうしようと思ってそうなったわけではないが、全て前世の記憶をもつ私が引き金となった出来事だ。

「なんてことしてくれたのよ!
 ここは私がヒロインの、私のための世界なのよ⁉
 あんたみたいな冴えない女が、どうして……」

 私を口汚く罵ろうとしたカリナだが、エルヴィンにギロリと睨まれて口を噤んだ。

「……私をどうするの? こ、殺すの……?」

「いいえ、そんな芸がないことはしないわ」

 私はまたにっこりと笑った。

「元の世界に戻してあげるわ。
 おまけをつけてね」

「お、おまけ?」

 エルヴィンに合図をすると、彼は大きな手で今度はカリナの顔を覆うように掴んだ。

「きゃああああ! なにするのよ!」

「私の元婚約者によろしくね」

「放して! 放しなさいよぉ!」

 喚くカリナに、私はひらひらと手を振った。

「さようなら、人殺しの三沢さん」

 次の瞬間、私たちを取り囲む渦巻を形成していた黒い靄がピタリと動きを止めたかと思うと、しゅるりとカリナに纏わりついて彼女を包む繭のようなものができあがった。
 元気に喚いていた彼女の声はもう聞こえない。

 繭はふわりと宙に浮き上がり、空気に溶けるように消えていった。

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