転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「狭いところですが、どうぞ寛いでくださいね。
 マリー、これを花瓶に生けてくれる?
 エルは、お茶をお願いね」

 ヘンリックをカウチに座らせ、私も向かい側に座った。
 
「ところで、あれから弟さんは?」

「弟はまだ帰宅しておりません。
 今頃どこぞの娼館で眠りこけているのだと思いますわ」

「そうですか……
 またクラリッサ嬢になにかするんじゃないかと、心配していたんですが」

「あら、心配してくださっていたのですね」

「あたりまえです。
 血の繋がった家族とはいえあんな男が同じ家にいるなど、危険極まりないではありませんか」

「大丈夫ですわ。
 家族は誰も知りませんけど、実はこの家の使用人は全員私の味方なのです」

 亡くなった祖母を慕っていた使用人たちは、横暴で自分勝手な両親と弟に対する忠誠心はとっくの昔に枯渇している。
 もちろん、雇われの身だからそれを態度に表すことはないが、私をさりげなく家族から見えないように遠ざけ、攻撃されることがないよう守ってくれているのだ。

「それに、そこにいる私の侍従は護衛も兼ねています。
 弟が百人いたって、彼一人で叩きのめしてくれますわ」

 ヘンリックはお茶を淹れているエルヴィンにちらりと目を向けた。
 エルヴィンは侍従のお仕着せを着ているが、騎士として鍛えているヘンリックよりも大柄な体躯をしている。
 ヘンリックは優美だが、エルヴィンは精悍といった印象だ。
 とはいえ、それは私がエルヴィンの素顔を知っているからで、ヘンリックはエルヴィンをただ野暮ったくて厳つい侍従だと思っていることだろう。
 
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