転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「と、口で言うだけでは信じていただけないと思いますので、出版社と交わした契約書をお持ちしました。
それから、こちらは書きかけの原稿です」
ヘンリックは私が差し出した書類を手に取ると、慎重に目を通し始めた。
「前世の私も本を読むのが大好きで、それが高じて自分でも小説を書いていたんです。
いくつかの作品が好評を得て、出版社から本を出さないかって打診が来ていたんですけど、実現する前に死んでしまいました。
それが心残りで、また思いつくままに書いてみたら、いつに間にやら本になることになっていたんです」
前世では、素人が書いた小説を投稿できる小説投稿サイトというものがあった。
私はコツコツと小説を書いては、ひっそりとそこで公開するのが趣味だったのだ。
ただし、それはあくまで前世の話だ。
今世にはそんな便利なものはないし、私が得意とするロマンスファンタジー系小説は調べた限りではこの国にはないジャンルなので、受け入れられるとは思っていなかった。
だから完全に趣味のつもりで書いて、マリアンネとエルヴィンにだけ読ませていたのに、私が知らない間に二人が共謀して出版社に原稿を送りつけていた。
書籍化が確定し担当までついてから知らされた私は、死ぬほど驚き、同時に飛び上がって喜んだ。
前世で叶わなかった夢が、生まれ変わってやっと実現したのだ。
二人にはとても感謝している。
「……原稿はよくわかりませんが、契約書は本物のようですね。
ご家族はこのことを知っているのですか?」
「まさか!
私がユカリ・シキブだということを知っているのは、私とそこにいる二人だけです。
編集担当の方とは侍従経由で手紙でやりとりしているので、私の正体を知りません。
小説家としての収入は、これまた侍従が管理している隠し口座に全額貯金してありますので、結婚後もヘンリック様に金銭的負担はかけるつもりはございません」
「私と契約結婚などしなくても、今すぐ独立できるのではありませんか?」
「可能ではありますけど、絶対に両親と弟が引き留めようとするでしょうから、それが面倒で。
かといって、なにも言わずに出奔したりしたら捜索願が出されたりして、また面倒なことになりますわ。
ヘンリック様のような立派な騎士様と結婚できたら、家族にギャフンと言わせつつ穏便に家を出ることができるので、とっても理想的なのです」
それから、こちらは書きかけの原稿です」
ヘンリックは私が差し出した書類を手に取ると、慎重に目を通し始めた。
「前世の私も本を読むのが大好きで、それが高じて自分でも小説を書いていたんです。
いくつかの作品が好評を得て、出版社から本を出さないかって打診が来ていたんですけど、実現する前に死んでしまいました。
それが心残りで、また思いつくままに書いてみたら、いつに間にやら本になることになっていたんです」
前世では、素人が書いた小説を投稿できる小説投稿サイトというものがあった。
私はコツコツと小説を書いては、ひっそりとそこで公開するのが趣味だったのだ。
ただし、それはあくまで前世の話だ。
今世にはそんな便利なものはないし、私が得意とするロマンスファンタジー系小説は調べた限りではこの国にはないジャンルなので、受け入れられるとは思っていなかった。
だから完全に趣味のつもりで書いて、マリアンネとエルヴィンにだけ読ませていたのに、私が知らない間に二人が共謀して出版社に原稿を送りつけていた。
書籍化が確定し担当までついてから知らされた私は、死ぬほど驚き、同時に飛び上がって喜んだ。
前世で叶わなかった夢が、生まれ変わってやっと実現したのだ。
二人にはとても感謝している。
「……原稿はよくわかりませんが、契約書は本物のようですね。
ご家族はこのことを知っているのですか?」
「まさか!
私がユカリ・シキブだということを知っているのは、私とそこにいる二人だけです。
編集担当の方とは侍従経由で手紙でやりとりしているので、私の正体を知りません。
小説家としての収入は、これまた侍従が管理している隠し口座に全額貯金してありますので、結婚後もヘンリック様に金銭的負担はかけるつもりはございません」
「私と契約結婚などしなくても、今すぐ独立できるのではありませんか?」
「可能ではありますけど、絶対に両親と弟が引き留めようとするでしょうから、それが面倒で。
かといって、なにも言わずに出奔したりしたら捜索願が出されたりして、また面倒なことになりますわ。
ヘンリック様のような立派な騎士様と結婚できたら、家族にギャフンと言わせつつ穏便に家を出ることができるので、とっても理想的なのです」