転生小説家の華麗なる円満離婚計画

 それから昼食までの時間、私たちはたくさんの話をした。
 ヘンリックから前世についての質問に私が答えることが多かったが、ヘンリックは彼自身のことも教えてくれた。

 ヘンリックは、実はフューゲル侯爵家の親戚から引き取られた養子なのだそうだ。
 侯爵家には一人娘がいて、将来は婿を迎えて家を継ぐ予定だったのだが、娘は他国から視察に来ていた青年と恋に落ち、駆け落ち同然に嫁いで行ってしまった。
 それで後継となる養子に選ばれたのが、当時八歳のヘンリックだった。
 
「私は長男で、下に弟と妹が合計五人もいたんです。
 あまり裕福な家ではなかったので、このままではろくに教育を受けさせることももできないと、資金援助と引き換えに両親は私を手放すことを選びました」

「そうだったのですか……」

 眉目秀麗で騎士としても優秀なヘンリックだが、その生い立ちはなかなか複雑なようだ。

「そして、ここらが重要なところです」

 ヘンリックは僅かに私の方に身を乗り出した。

「後継となるため侯爵家の養子になった私ですが、侯爵家を私が継ぐことはありません」

「え? どういうことですの?」

 私は目を丸くして首を傾げた。

「駆け落ちした侯爵家の一人娘は、嫁ぎ先で幸せに暮らしていたそうなのですが、数年前に夫婦そろって事故死してしまったんです。
 娘にはまだ幼い男の子がいたので、養父母は喜んで引き取りました。
 こうなると、私ではなく血がつながった孫に家を継がせたいと思うのは当然の流れです」

「そ、それは……」

 理解はできるが、それではヘンリックの気持ちはどうなるのか。
 侯爵家を継ぐために、きっと頑張っていただろうに。

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