転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「この話をすると皆がそんな顔をするのですが、私からしたらそう悪い話ではないのですよ」

「そうなのですか?」

「孫……私からしたら義理の甥になるわけですが、あの子が引き取られて来た時、私は既に騎士としての腕を認められて、第二王子殿下の護衛騎士になっていました。
 殿下は、私の主というだけでなく、親しい友人でもあります。
 私はこの仕事を気に入っているのですが、家を継いで侯爵になったらさすがに続けることはできません。
 甥を後継にするという話は、私からすれば渡りに船のようなものだったのですよ」

 なるほど、そういう理由なら納得できる。
 家を継いだら領地経営や社交などが主な仕事になるわけだが、彼としてはそういったことより護衛騎士の方が性に合っているのだろう。
 そのあたりは、向き不向きと個人の好みの問題だ。
 
「予定していた未来は変わってしまいましたが、私は侯爵家の養子になってよかったと思っています。
 おかげで、私の弟と妹たちはきちんと学校に通うことができたそうですから。
 後継でなくなった今も、養父母は私を気にかけ大切にしてくれています。
 早く結婚しろとせっつかれるくらいですからね」

 そう言って微笑むヘンリックには、暗い影は見当たらない。
 複雑ながらも周囲に恵まれ、真っすぐに育ったのだということがよくわかる。

 やはり、彼は契約結婚の相手としてこの上なく理想的だ。
 彼が侯爵家を継がないのなら、結婚後に私が侯爵夫人としての教育を受ける必要もいないわけだ。
 執筆に集中したい私からすれば、とてもありがたいことだ。

 エルヴィンも殺気を発していないことから、ヘンリックに対し悪い印象は抱いていないらしい。
 
 そうこうしているうちに、マリアンネが昼食をカートに乗せて運んできた。

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