転生小説家の華麗なる円満離婚計画
 別れ際に、ヘンリックは優雅な仕草で私の手の甲にキスをした。
 そして、チラリと私の背後に控えるエルヴィンとマリアンネに目を向けた。

「クラリッサ嬢は、いい使用人を持っていますね。
 二人とも、私をずっと警戒しています。
 特に彼のほうは、いざとなったら私を殺すのも躊躇わないくらいの心構えでいるようです」

 騎士であるヘンリックには、エルヴィンの押し殺した殺気も感じ取れるのだろう。
 というか、マリアンネまでそんなに警戒していたのか。

「申し訳ありません、後で叱っておきますわ」

「いえいえ、むしろ褒めてあげてください。
 主人を守ろうとするのは、使用人として当然のことです」

 どうやら、エルヴィンとマリアンネも高評価を得ているようだ。
 二人が褒められるのは、私も嬉しい。

「契約結婚などということ以前に、場合によってはきみを我が家で保護しようと思っていたのですが、彼が傍にいるならその必要もなさそうですね」

「まぁ、そこまで考えていてくださったのですか」

「私は騎士ですからね。
 か弱い女性が害されるのを見過ごすことはできません」

 柔らかく微笑むヘンリックだが、そのエメラルドの瞳には熱も情念も劣情も宿っていない。
 下心も何もなく、私を助けようとしてくれていたのだ。
 やっぱり、彼は純粋にいい人であるようだ。

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