転生小説家の華麗なる円満離婚計画
 まだ納得できないようで、マリアンネはさくらんぼのような唇を尖らせている。
 これはこれで可愛いが、お勉強は手を抜くわけにはいかない。

「じゃあ、そうね。
 マリーが間違えずに計算できるようになったら、なにかご褒美をあげましょう」

「ごほうび⁉」

 パッチリとしたアメジストの瞳が輝いた。

「それなら、頑張る!」

 マリアンネは俄然やる気になり、計算問題が書かれた紙とにらめっこを始めた。
 
 そんな妹が可愛くて、艶やかなストロベリーブロンドを撫でていると、今度はエルヴィンがしかめっ面になった。

「お嬢、マリーをあまり甘やかさないでくれ」

「少しくらいいいじゃない」

 母を亡くし、突然全く知らない場所に連れてこられただけでも大変なのに、普段はメイド見習いとして泣き言を言わず頑張っているのだから。
 なにか理由をつけて、ご褒美をあげたいと思っていたところだ。

「エルヴィン、あなたにもご褒美をあげるわね。
 あなたもとても頑張ってるもの」

 エルヴィンも、侍従見習いとしての仕事もお勉強も鍛錬もすごく頑張っている。
 ぜひともご褒美をあげたいのに、生真面目な顔で断られてしまった。

「……俺は……今は、なにもいらない」

「あらそう? 遠慮することないのよ?」

「遠慮してるわけじゃない。
 そのうち全部まとめてもらうから、それまで俺の分のご褒美はとっておいてくれ」

「? ええ、あなたがそうしたいなら、それでいいけど」

 つまり、ご褒美貯金みたいなものだろうか。
 将来彼が自立する際、お祝い金みたいにして渡すのも悪くない。

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