転生小説家の華麗なる円満離婚計画
 私は伯爵令嬢だからどうなるかわからないが、この二人には自由に将来を選んでほしい。
 そのために、私はできる限りの手助けをしていくつもりだ。

 それからしばらくして、無事課題をクリアしたマリアンネが望んだご褒美は、「お姉さまとお菓子をつくりたいです!」という可愛らしいものだった。
 なんでも、亡くなった母は料理上手で、マリアンネはお手伝いをするのが大好きだったのだそうだ。

 私もいつか料理に手を出そうと思っていたので、ちょうどいい機会だと料理長に頼み、マリアンネとエルヴィンと一緒にクッキーをつくらせてもらった。
 クラリッサになってから初めての料理だったが、前世の記憶のおかげで特に苦労することもなく、シンプルながらバターのいい香りのするクッキーが焼きあがった。

「お姉さま! すっごく美味しい!」

「そうね、上手にできてよかったわ」
  
 クッキーを頬張ってはしゃぐマリアンネの可愛い笑顔に、私だけでなく皆が笑顔になった。

「厨房を使わせてくれてありがとう。またお願いしてもいいかしら?」

「もちろんでございます、お嬢様。
 いつでもお手伝いいたしますよ」
 
 子供好きな料理長は、ニコニコと頷いてくれた。

 そんなことがあってから、私は厨房に度々顔を出すようになり、料理長と話し合いながら新しいレシピを次々と開発するようになった。

 バルテン王国の料理は、基本的に肉は切ってスパイスと塩をつけて焼くだけ、スープは数種類の野菜を塩味で煮込むだけ、サラダは塩と植物油と酢をかけるだけ、という素材の味に頼りきった料理ばかりで、物足りないと思っていたのだ。
 お肉を調味料に漬けて時間をかけて下味をつけたり、以前は捨てるだけだった鶏ガラで出汁をとったり、ドレッシングやマヨネーズの作り方を提案すると、料理長の手により即試作され、ほぼ毎回大絶賛された。

 私がそうするようにと指示をしたわけではないが、使用人たちが示し合わせたようでこのことは両親には伝えられなかった。
 おかげで私は誰にも煩わされることなく、楽しく料理をすることができたのはとてもありがたいことだった。
 私は両親には恵まれなかったが、それ以外の周囲の大人たちにはとても恵まれていたのだ。

 料理長はなにも知らない父に腕を上げたと褒められ、使用人たちも賄いが美味しくなったと皆が喜んでいた。
 美味しい料理が食べられるようになり、私も大満足だった。

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