転生小説家の華麗なる円満離婚計画
 一方、私の家族はどうだったかというと、かなり格上な侯爵家からの婚約打診になにも知らない父は驚きつつも喜んでいた。
 ヘンリックと出会ったきっかけを知っている母と弟は、なんとも言えない微妙な顔をして口を噤み、以前にも増して私を避けるようになった。 
 派手好きな母が結婚準備に口を出してくるのではないかと思ったが、そんなこともなかった。
 さすがに後ろめたいのと、さりげなく塩対応な侯爵家からこれ以上の不興を買うのは得策ではないと判断したのだろう。

 私はエルヴィンとマリアンネと一緒に悠々と結婚準備を進め、式の一か月も前にヘンリックが準備してくれた新居に三人で引っ越した。
 家族は顔も見せなかったが、キルステン伯爵家の使用人たちは総出で別れを惜しんで見送ってくれた。

 新居は、フューゲル侯爵家が所有する小さめの屋敷の一つだ。
 白い結婚だということが侯爵夫妻にバレるのを防ぐため、新婚の間は二人で暮らしたいという理由でヘンリックが手配してくれたのだ。
 さすがに同じ屋根の下で暮らすことになる使用人たちには隠せないので、口が堅くてヘンリックの幸せを第一に考えてくれるような人たちを侯爵家の使用人の中から選んで連れて来てあると聞いている。
 エルヴィンとマリアンネもいるし、私も自分の身の回りのことは自分でできるから、使用人は最低限の人数でいいのだ。

「いらっしゃい、クラリッサ。待っていたよ」

「ヘンリック様。今日からお世話になります」

 出迎えてくれた彼に、私が笑顔でカーテシーをするのと同時にエルヴィンとマリアンネもそれぞれ礼をとった。

「今日からここがきみたちの家だ。
 周囲を気にせず、自由にのんびり過ごすといい。
 私は特にこだわりはないから、予算の範囲内なら内装とかも好きにしていいからね」

「ありがとうございます、ヘンリック様。
 そうさせていただきますわ」

 荷物の大半はもう新居に運び込んであるので、引っ越し当日とはいえ身軽なものだ。
 何度か荷物の整理のために新居に通ったこともあり、使用人たちとの顔合わせも済んでいる。

 新生活に向けての準備はバッチリなのだ。

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