転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「せめて、きみたちがこの家に馴染むまで傍にいてあげたかったんだが……」

 希望に胸を膨らませる私に、ヘンリックは申し訳なさそうに眉を下げた。
 少し前に隣国で魔物関係の問題が起きたとのことで、魔物研究の第一人者として名高い第二王子殿下に支援要請がきたのだ。
 隣国は王太子妃殿下の故郷でもある友好国で、好奇心旺盛な第二王子殿下は即座に隣国に行くことを決めた。
 そうなると、専属護衛騎士であるヘンリックももちろん同行しなくてはならない。
 結婚式を一か月後に控えているとはいえ、そんな個人的な事情より隣国との友好関係を維持することの方が優先なのは当然だ。

「たぶん、結婚式前には帰還できると思うけど……遅れてしまったらすまない」

 契約結婚なのだから、私も結婚式にこだわりはなく、必要最低限で済ませるように手配してある。
 仮に延期になっても、なんとかなるだろう。
 というか、延期になったら様々な理由をつけてさらに簡素化できそうなので、できれば延期になってほしいと思っているくらいだ。

「お仕事なのですもの、しかたがありませんわ。
 私は大丈夫ですから、心配なさらないでください。
 ご無事のお帰りをお待ちしておりますね」

「ああ、行ってくるよ。
 できるだけ手紙を書くからね」

 こうして私たちと入れ違いで、ヘンリックは隣国へと旅立った。

 普通の令嬢だったらとても寂しく心細い思いをするところだろうが、私はもちろんそんなことはない。

「さて、さっさと荷物を整理してしまいましょう。
 今夜は皆で無礼講の晩餐会よ。
 私も腕を振るうわ!」 

 ヘンリックが絶賛していたという私考案のレシピに興味津々だった料理番と協力し、私はハンバーグやフライドチキンやサンドイッチなどをたくさんつくり、フューゲル侯爵家から来てくれている使用人たちと同じテーブルで夕食をとった。
 お酒も飲みすぎない程度にふるまったこともあり皆に大喜びされ、初日から私の株は急上昇した。

< 44 / 147 >

この作品をシェア

pagetop