転生小説家の華麗なる円満離婚計画
 こうして始まった生家を離れての暮らしは、とても快適だった。
  初日に一瞬だけ妙な雰囲気になったが、それもあの時だけで、優秀な使用人たちはごく普通に私たちに接してくれる。
 皆とても親切で、ちょっかいをかけてくるような不埒者はいないから、マリアンネだけでなくエルヴィンも素顔を晒している。

 快適なのは私だけでなく、エルヴィンとマリアンネもキルステン伯爵家にいた時よりも明るい表情で過ごしている。
 思い切って契約結婚を持ちかけてよかったと心から思いながら、このような環境を与えてくれたヘンリックに感謝しつつ彼の無事を祈っていた。

 そして、彼がやっと帰国したのは、結婚式の三日前だった。

「おかえりなさい、ヘンリック様。
 ご無事でなによりです」

 出迎えた私に、ヘンリックは少し疲れた様子ながらも穏やかな笑顔を向けた。
 
「ただいま、クラリッサ。
 なんとか結婚式前に帰ってこれたよ。
 式の準備はどうなってる?」

「万事抜かりなく。延期はしなくて済みそうですわね」

「そうだね、よかった……」

 言葉を切った彼は、疲労を滲ませていても美しい顔に見ているこちらが驚くくらいの驚愕の表情をうかべた。

 大きく見開かれたエメラルドの瞳は、私の後ろを見つめている。

 その視線を追うと、そこにいたのはマリアンネだった。

 彼女がきれいな顔をしているのは確かだが、そこまで驚くほどのことだろうか。

 マリアンネもその隣のエルヴィンも、そんなヘンリックに困惑している。

 ヘンリックはよろよろとおぼつかない足取りで、マリアンネに歩み寄った。

 エルヴィンはさっと彼女を背中に庇うように立ち、私は慌ててヘンリックの腕を引っ張った。

「ヘンリック様! 突然どうなさったの⁉」

「マリア……マリア!」

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