転生小説家の華麗なる円満離婚計画

 興奮するヘンリックをなんとか宥め、サロンへと移動した。
 いつもは穏やかなエメラルドの瞳は、ギラギラと輝きながらマリアンネを見据えていて、ちょっと怖い。

「それで、ヘンリック様がずっと探していた初恋の女性というのは、このマリーなのですね?」

「ああ、間違いない」

 いつもは背後に控えているマリアンネは私の隣に座り、向かい側にいるヘンリックに困惑の視線を送りながら私の手を不安気に握った。
 エルヴィンはそんな私たちが座るカウチのすぐ横に立ち、いつでも動けるように身構えている。
 
「いつマリーに出会ったのですか?」

「私がフューゲル侯爵家に引き取られてすぐの頃だ。
 自分の置かれた状況は理解していたが、それでもまだ八歳の子供だったから、どうしても元の家族が恋しくなって……屋敷をこっそり抜け出して家族を探しに行って、案の定道に迷って途方に暮れていた時だった。
 マリアは一緒に家族を探してくれて、最後は屋敷まで送ってくれた。
 もちろん家族は見つからなかったんだが、マリアと手をつないで歩いたのが嬉しかったんだ。
 以前は普通のことだったのに、侯爵家では誰も手をつないでくれないから……」

 高位貴族になればなるほど、家族間でも身体的な接触は少ないのが一般的だ。
 養子であるヘンリックに対しては、なおさらだったのだろう。
 虐げられているわけではないにしても、寂しいと感じるのは当然だと思う。

「それから、たまに屋敷を抜け出して家族ではなくマリアを探すようになった。
 いつも会えたわけではなかったが、会えるといつもマリアは私と手をつないで家族を探してくれた。
 それが心の支えのようになって、侯爵家の生活にも慣れることができた。
 なのに、ある時からいくら探してもマリアが見つからなくなった。
 近所にいた同じ年頃の子供に聞いてみると、マリアの母親が亡くなって、親戚に引き取られたと言われて……無力な私には、大人になったら絶対にマリアを探し出そうと心に誓うことしかできなかった。
 きれいな薔薇色の髪をした可愛い女の子だから、そう難しくはないと思ったのに、どれだけ手を尽くしてもマリアは見つからなくて……
 いい加減に諦めろと言われても、どうしても諦めきれなくて……
 本当に、ずっと探していたんだよ、マリア」

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