転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「アブラッハが弱ったのは、根に虫型の魔物が寄生していて、養分と魔力が吸い取られていたのが原因だったのだが、それを突きとめたのはルーカス様と婚約者のハイデマリー様だった。
 その後魔物は騎士団により無事退治され、アブラッハは元通りに回復している」

 第二王子殿下とハイデマリー様は、二人揃って優秀な魔物の研究者なのだ。
 特にハイデマリー様は神童と呼ばれるほどの天才で、まだ未成年ながら数々の優れた論文を発表し、その度に大きな話題となっている。
 第二王子殿下はそんな婚約者を溺愛しており、ハイデマリー様が成人する十八歳の誕生日に結婚式を挙げる準備をしているのは有名な話だ。

「あの女は、アブラッハの根に寄生する魔物のことを知っていた。
 その魔物を倒せばアブラッハは元気になると言って……とっくにそれは解決済みだと知るとまた妙なことを言い始めた」

 嫌な予感が強まり、私は手をぎゅっと握りしめた。

「ここはあの女が主人公のマンガとかいう形態の本の中の世界で、私たちはその登場人物なのだそうだ」

 ああ、やっぱりそんな流れなのか……
 なんとなく展開が読めてきた。

「私と第一王子殿下と騎士団長の息子とアンゼルム大公はそれぞれ問題を抱えていて、それをあの女に癒されて、私たち全員があの女を愛するようになるはずなのだと」

「えぇぇ? そんな無茶な!」

 マリアンネが叫んだ。

 前世ではそういった感じの逆ハーレム展開になる小説や漫画もあったが、あれはあくまでの架空の世界の話だ。
 前世からすれば異世界になるこの国の倫理観でも、現実的にそんなことが起こるとは考え難い。
 
 それにしても、自称聖女……もしかしなくても、日本人なのではないだろうか。

「いろいろと常識外れなところはあるにしても、希少な回復魔法の使い手だ。
 どこかの貴族家の養女になって平穏に暮らすことを提案してみたのだが、それは絶対に嫌だと拒否している。
 どうにかすれば私たちを篭絡できると確信しているようだ」

 そんなはずないのに。
 少なくとも、マリアンネにぞっこんなヘンリックが他の女に心を移すなんてありえない。

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