転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「マンガがどうこうという点は無視されたが、アブラッハに関するところはそういうわけにもいかない。
 どこかから機密が漏洩しているのなら、その元を絶たねばならない。
 というわけで、現在あの女はアンゼルム大公に保護という名目で監視されている状態だ」

 アンゼルム大公は独身だし、女性の扱いに慣れているだろうからきっと適任なのだろう。
 もしヘンリックがその役目を仰せつかっていたら、自称聖女がこの家に来ることになっていたかもしれない。
 そうならなくてよかった。

「意味不明ではあるが、私にはあの女が嘘をついているようには見えなかった。
 リサの前世の記憶のこともあるし、そういう不思議なことがあってもおかしくないんじゃないかと思ったんだ。
 それで、私は考えてみた。
 もしこの国が、あの女が言う通り本の中の世界だと仮定して……これほど変貌した原因はなんだろうか、と。
 そして……私とリサが結婚したことがそれにあたるのではないか、と思い当たったんだ」

「どうしてそう思ったの?」

 ある程度の確信を持っているらしいヘンリックに、私たちは首を傾げた。

「私たちが結婚したのは約三年前のことだ。
 私はマリアに再会して恋人になったことで精神的に充実し、エルにも鍛えられて、以前に比べてかなり腕を上げた。
 皆も覚えていると思うが、ルーカス様が襲撃されたことがあっただろう。
 あの時、私が賊を撃退できたのはそのおかげだ。
 以前の私のままだったら、ルーカス様を守りきれなかった可能性が高い」

 それは、そうなのかもしれない。
 私たちの結婚を境に、彼がめきめきと腕を上げたのは事実だ。
 
「アブラッハが弱り始めたのは、襲撃の二か月後くらいだった。
 あの襲撃の時、ハイデマリー様も一緒にいた。
 ルーカス様が殺さるような状況なら、ハイデマリー様も無事では済まないと考えるのが自然だ。
 もし襲撃であの二人が死んでしまっていたら、アブラッハが弱った原因を解明することは不可能だっただろう」

「そうでしょうね」

「第一王子殿下が結婚する直前、妃殿下が毒を盛られ命を落としかけるという事件があった。
 それから、アンゼルム大公が地方に視察に赴いた際、魔物の群れに襲われて、大公と護衛として同行していた総騎士団長が負傷したことがあった。
 どちらもアブラッハの魔物が討伐された後に起こったことだ。
 もしアブラッハの実が採れなくなっていたら、妃殿下と総騎士団長は亡くなり、大公も体が不自由になるという、あの女が言ったような状況になっていたかもしれないと思うんだ」

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