転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「そういえば、あなたはなんでこんなところに?」
 
 青年はきれいな金髪をしていて、着ている夜会服もかなり豪華なようだ。
 きっと高位貴族だろうに、どうしてこんな人気のないところにいるのだろう。

「単純なことです。
 結婚相手を探せと夜会に引っ張り出されたのですが、どうしてもそんな気になれなくて、隠れて時間を潰していたんですよ」

 男性がこんなことを言うのは、まだ遊びたいとか、一人に縛られたくないとか、そういった理由であることが多いということは私もよくわかっている。
 だが、私はつい願望と『小説に登場させるならこんなキャラ設定にしたい』というのが混ざって、ポロっと口にしてしまった。

「もしかして、忘れられない方がいらっしゃるとか?」

 言った直後に、初対面の男性にこんな踏み込んだことを訊くのはマナー違反というか不躾すぎたと思ったが、一度口から出た言葉を飲みこむことはできない。

「その通りです。
 お恥ずかしいことに、初恋の相手が忘れられないのですよ」

 気を悪くした気配もなく、ただ苦笑を滲ませた穏やかな声が返ってきた。
 忘れられないのが初恋の相手だなんて、私の願望のさらに上をいくではないか。

「ちっとも恥ずかしいことではありませんわ!
 そんなに一途に誰かを思い続けられるなんて、素敵だと思います!」

 次作のヒーローはそういう設定にしようかな、と思うくらい素敵だ。

 世の中の男が皆この人みたいだったらいいのに。
 そうでないから、そういうキャラがウケるのだけど。

「最後に会ったのは、もう十年以上前のことです。
 いい加減に諦めろと言われるのですが、それもできなくて」

「十年以上も……」

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