転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「ヘンリック、落ち着け」

 殿下が、そんな彼の肩をポンと叩いた。

「ここでするような話じゃない。
 場所を変えよう」

「……わかりました」

 今のヘンリックには、マリアンネを始めとした大切な人がたくさんいる。
 例えばこの国が大きな災害にみまわれたとしたら、誰かが死んでしまうかもしれない。

 怒りや苛立ち、焦燥などが入り混じった感情を隠そうともしない彼は、美しいからこそ凄絶な迫力を放っていて、私ですら寒気がするようだった。

「答えないというなら、私が手ずから拷問にかけてやろう。
 慈悲などかけず、最初からこうすればよかったんだ。
 おまえの望み通り、仲良くなろうじゃないか。牢獄でな」

 ヘンリックは、涙目になっているカリナの腕を掴んで私たちを振り返った。

「このことはまだ他言無用だ。
 それから、すまないがこれはもう食べる時間はなさそうだ」

「わかってるわ。お仕事頑張ってね」

 私は彼からバスケットを受け取った。
 せっかくの差し入れだが、こんな状況になってはしかたがない。

「エル、頼んだぞ」

 大切な宝物を守ってくれと言外に伝えるヘンリックに、エルヴィンは力強く頷いた。

 カリナを引きずるように連行するヘンリックたちを見送り、私たちも帰途についた。

 なんだか別の問題が出てきてしまったが、とりあえず私の目的は達することができた。

 自称聖女カリナは、やはり私が知っているカリナだった。

 三沢カリナ。

 前世の私の婚約者だけでなく、命まで奪った女だ。
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