転生小説家の華麗なる円満離婚計画

 前世の私は、読書が好きで細々と小説を書くのが趣味の、どちらかといえば地味なOLだった。
 どういうわけか営業部のエースに告白されて付き合うようになり、口約束ではあったが婚約したところで、彼の浮気が発覚した。
 相手は、よりにもよって私が教育を担当していた新入社員の三沢カリナだった。
 彼女は私と彼が婚約間近なのを知って、私をダシに彼を呼び出し酒を飲ませて、ホテルに連れ込み既成事実をつくった。
 そして、その翌月に「妊娠したから責任をとって♪」とエコー写真を手に彼に迫り、こうなってはどうしようもないと彼は私と別れることを選んだのだった。
 幸せそうに妊娠と結婚を職場で発表するかりなの隣に立った彼は、私と目が合うと気まずそうな顔をして視線を逸らした。
 彼がまだ私に心を残しているのは明らかだった。
 そして、それがカリナが私に殺意を向けることに繋がったのだろう。
 それから数日後、両手で資料の束を抱えて階段を降りていた時、私は後ろから突き飛ばされて階段を転げ落ちたのだ。
 全身を酷く打ちつけ、頭からはドクドクと出血しているのを感じた。
 なんとか上を見上げ、カリナが満足気に笑って立ち去るのを見たのを最後に、私の記憶は途切れている。

 思い出すと辛く悲しい記憶ではあるが、もう遠い過去のことだと思っていたのに。

 まさか、私が転生したこの世界で、私から全てを奪ったカリナに再会することになるとは。

「これはきっと、運命なんでしょうね」

 最後にぽつりと呟いた私に、マリアンネは涙ぐんだ。

「なんて酷いことを……お姉様、辛かったでしょう……」

「辛かったけど、過去のことだもの。
 とっくに乗り越えてるから、大丈夫よ」

 なにせ、前世のことなのだ。
 クラリッサとして幸せに暮らしている今、小説のネタを探す時以外は前世を思い出すことすらほとんどない。

 それにしても、今日見たカリナは私が知っている姿とほとんど変わりはなかった。
 それなのに男漁りをしているということは、やはり妊娠は嘘だったのだろう。
 元婚約者はなにを言われたのか知らないが、あのあざと可愛い顔にころっと騙されてしまったわけだ。

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